■ 音盤紹介
『螢の光のすべて』(CD・解説書付き)



 日本では知名度抜群の『蛍の光』。この曲 (及び関連曲) ばかりを、歌あり器楽あり、2拍子あり3拍子ありと、27曲も収録したCDです。同じ曲ばかりで飽きてしまうのでないかと思われるかも知れませんが、心配御無用。

 ピアノやオーケストラの他、ヴァイオリン、バグパイプ、手廻しオルガン等々、多彩な楽器で楽しめます。ブルーグラス、ディキシーランド、マーチ等の編曲も多数。最古は、1905 (明治38) 年の大日本帝国海軍軍楽隊による演奏。当時国内には録音装置が無く、訪日した欧米のレコード会社の手によります。題名は『告別行進曲』。明治14年に音楽取調掛 (後の東京音楽学校) で歌われた『螢』の再現をするという意欲的な取組みもなされています。こちらの伴奏は琴と胡弓。

 原曲はスコットランド民謡で、題意は「遠き昔 (old long since)」。音階が日本の四七 (ヨナ) 抜き音階に通じていたのが、親しまれた一因と言われています。明治15年に賛美歌そして小学校唱歌として、相次いで曲譜が出版されました。今から130年前の出来事です。

 収録の歌詞は、英語はもとより、朝鮮語・中国語など多様です。変わった所では、モルディブ国歌のディベヒ語。『蛍の光』は世界中で知名度抜群なのです。これらの歴史的経緯については付録の解説書に詳しい。日本語詞は幾種もありますが、最も知られているのは、東京師範学校の教員で歌人の稲垣千頴の手による明治14年の作詞。原曲にはない「別れ」が添加されました。

「嚢蛍夜読」

 昔小学校で、1番の歌詞にある「いつしか時もすぎの戸を」の「すぎ」が「過ぎ」と「杉」の掛け詞だと習った覚えがあります。今では歌われることのなくなった4番の歌詞を掲載しておきます。

 千島の奥も沖繩も/八洲の内の護りなり/至らん国に勲しく/努めよ我が背 つゝが無く (【註】1. 明治後期になると「沖縄」は「台湾」に替る 2. 八洲 (やしま) は日本の異称)

 キングレコードの『・・・のすべて』シリーズには、他にも『君が代』『ラジオ体操』『鉄道唱歌』『さくらさくら』等々があります。何れも曲の来歴や背景を掘り下げ、貴重な音源も収録されており資料的価値も十分です。
 最後のトラックは『別れのワルツ』(編曲=古関裕而)。本稿もそろそろ閉店です。

題名
螢の光のすべて
企画制作
石川宏平
発売元
キングレコード
発行日
2002年3月6日
CD番号
KICG-3075
定価
3,000円 (税別)

(aip 19号より・2012年3月)