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この稿を書いている2003年5月から6月は、文学座アトリエ/青山円形劇場/ザ・スズナリ/駅前劇場/旧真空鑑アトリエと小劇場での仕事が続いている。育ちが小劇場なので居心地は悪くない。
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■ 小劇場
客席数300以下の劇場は、東京だけでも優に百を越える。右の【表】は小劇場の設立をまとめたものだ。元来小劇場は商業演劇や新劇に対抗して現れた演劇活動で、客席の多寡で区分される性格のものではない。
| 【東京都内の主な小劇場の開設】 |
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■ 奇跡のちり紙交換 (1984/4・名古屋名演会館)
『モモ』訳=大島かおり |
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本番中の操作も自分でしていた。ステージを重ねて飽きてきた頃だった。別の仕事で用意していた "ちり紙交換の音" が、手元にあるのを思い出した。現実に引き戻す音であれば、これでも可だ。受けの芝居もない。みんなを驚かしてやろうという悪戯心が自制心を上回った。
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このSはその後ある出来事に遭遇する。ある日知人の女性と名古屋の街を歩いていた。人妻で妊娠7ヵ月だった。すると女は言った。「あなたの子よ!」途端Sは全力で走り出した。不意の音声に反応する機敏さは生来のものらしい。歩道・車道・歩道橋を駆け抜けアパートに戻ると、件の女が立っていた。「お帰りなさい、遅かったわね。」と女は言った。Sは交換不能の事態である事を覚ったのだった。
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■ 竹輪の変身 (1992/1・東京シードホール)
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『夢』アンリ・ルソー/1910 |
正月の東京公演仕込の日である。照明スタッフが、天井の格子の上に何か小物体があるのを発見した。回収するつもりが誤って下に落とした。客席の絨毯に当り、包装が破れて中味が飛び出た。何とそれは腐敗して液状化した竹輪だった。猛烈な異臭が立ち込め大騒ぎとなった。
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悪臭は兵器級だった。陰謀説まで浮上した。いくら拭いても飛散して絨毯に染みついた元竹輪は存在を誇示し続けた。プロデューサーの判断で芳香スプレーの大量散布で対応した。ローズ・ジャスミン・ラベンダー
‥‥。むせ返るような花の匂いが劇場に充満した。花々は眠るどころか繚乱である。匂いを感じてこれを演出だと思った人もあった。
プロデューサーは奇しくも幼少の折、その食品会社のイメージキャラクターのモデルだった。昨年品質期限改ざん事件を起こしたのはこの会社だ。件の竹輪の賞味期限が切れていたのは間違いない。この因果の巡り様は渡辺えり子の世界に通じるものがある。
竹輪を笛にして演奏する芸がある。鳥の音を奏でる笛にまさか竹輪が嫉妬した訳でもあるまい。小劇場は五感を刺激する。
(悲劇喜劇 2003年8月号より/特集=小さな劇場の栄光)